次に、ドニーさんが弟についてどう思っていたのかという、最も重要なポイントについて考察してみたいと思います。

 本編の中でそのことを直接述べている部分は皆無ですが、わずかに残された推理ポイントとして、「バンが本当の優しさを持っているかを試した」ことがあげられます。プロイツェンのたくらみを阻止するためだけなら、「本当の優しさ」 は必要ありません。つまりバンの優しさは、別の目的のために必要だったと考えられるのです。そしてその目的とは、後の人々の動きから、「プロイツェンからの弟奪還作戦」であったことがわかります。


 弟がアララテ山の事故以来グレちゃって、帝国でやばい仕事をしているのは知っている。力ずくでもその仕事から足を洗わせたいけど、できればハートブレイクな弟の心を、これ以上傷つけたくない。
 だから、ただゾイド戦に強いだけでなく、
弟の辛い気持ちを思いやってくれて、なおかつ実力で首根っこひっつかまえて自分の所まで連れ帰ってくれる人物を求めていたのではないでしょうか。強さより先に優しさを試したあたりに、その思考が見て取れます。


 また、アルカ峡谷での決戦の時、バンもフィーネもジョイスの過去を知っていましたが、その過去バナをしたのはドニーさんです。事故現場を徹底検証したのだから、ドニーさんには事故当時、ノアのコクピットにジョイスがいたことも解っていたと推察されます。


 ドニーさんがバンに過去バナをした理由はただ一つ、「うちの弟、今はグレちゃってるけど、それはこんな辛いことがあって心が傷ついちゃったからで、本当はとってもいい子なんです。でも悪いことをしてるのは確かなので、ぜひあのひん曲がった根性、たたき直してやってください。でも弟は繊細で壊れやすいから、ひとつお手柔らかにお願いしますね」という大変都合のいいお願いを、バンくんにお願いしたかったからだと考えられます。弟を思う兄心という情にからめてバンを動かしたわけですね。バンだって姉一人、弟一人の身の上ですから、兄弟愛を全面に押し出してお願いされたら、彼の性格上、断ることはできなかったでしょう。


 なにより、[弟をぶっ倒せ]という依頼だったら、それがどんなに正しいことでも、バンの性格上、絶対に引き受けなかったはずです。だからここでバンが頼まれたのは、「弟のことよろしく」以外、あり得ないのです。
 そしてバンが「わかった」といったとたん、ルイーズ大統領に共和国へ連れていかれ、極秘特訓を受けるハメになったわけですね。業界用語ではこれを
「カタにはめる」といいます。ドニーさんの「弟奪還作戦」が、いかに綿密かつ周到に練られた計画であるかが、窺い知れる一幕です。


 もちろんドニーさんだって、そんな都合のいいお願いを、ただでお願いするほど鬼ではありません。見返りとして、バンとフィーネにゾイドイヴの情報を教えています。惑星全体の命運にかかわる情報だって、弟のためなら開示しちゃう。ドニーさんの価値観というものが見て取れる行動です。


 以上のことから、ドニーさんは弟のことが大事で、何とかして更生させて、自分の所に取り戻したかったのだと推測できます。
 なんといっても、上山先生がレイヴンの「帰るところ」と「受け入れてくれる家族」としてドニーさんを登場させたと考えるのが、流れとして自然です。プロイツェンから自由になっても、いくところが無いのでは、あまりに不憫ですから。

 つまりドニーさんは
「レイヴンに愛情を注いでくれる人間」として生まれたキャラだと考えられるのです。「弟、ラヴ」で無問題なのです。兄弟愛、家族愛ですから。
 チェン家が大陸系の血統であることは間違いないですが、
灼熱よりも熱く地獄よりも深い愛情を肉親へ注ぐのが大陸系の人の特徴です。兄さんが弟大好きでも、まったく何の問題も違和感も無いのです。よかったね、ジョイス!



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 ド兄さんがセレブ偏愛症候群に罹患していた場合、彼の「弟、ラヴ」は確固たる不動のものとなっていることでしょう。
 セレブ偏愛症候群とは、セレブのヒトが自らの血統に絶大な誇りと自負を持つあまり、同じ血族の人間しか恋愛や性欲の対象にならないという、セレブ世界に古くからある風土病です。かつて中世の日本でも、「藤原氏にあらざるものは人にあらず」「平氏にあらざるものは人にあらず」と言われたことがありましたが、同じように、自分と同じ血統じゃない人間なんてケモノのようなものですよ、おー汚らわしい。という心理状態に陥ってしまうのが、セレブ偏愛症候群の特徴なのです。
 その場合、ド兄さんの「弟、ラヴ」の質量は、500%増量(ド兄さん5人分の愛情)くらいになっていると推測できます。
 ド兄さんと違って、普通の人間の常識を持っているジョイスにはちょっと辛いかも知れないけど、愛があるから大丈夫!これからは愛情に不足することはないんだね。よかったね、ジョイス!!